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PASSIONEER


À la recherche du temps perdu ― 黒の麻、波に千鳥
祖母が遺した波に千鳥。70年の時を経て、今は私が纏う。 母が嫁ぐ時に花嫁道具のひとつとして持たされたという、麻の着物。 普段着だ。ところどころにフシが見られることから、けっして高価なものではないことがうかがえる。 夏のひとときを新婚夫婦で過ごせるよう、男ものの上布と共に持たされたらしい。 袖の丸みはふんわりとして、あくまでも薄く、陽にかざすと青空が透けて見える。 千鳥が波に遊んでいる。 風が吹けば波しぶきがおこる。 私が歩けば千鳥が舞う。 着物は着て歩いて初めて息をする。 祖母が着ていたものかもしれない。 袖と身頃に継ぎがしてある。 ざっくばらんに。 祖母が自分で繕ったのだろう。 母はこの千鳥を長い間行李からださなかった。 というか、一度も袖を通さなかった。 父も、自分のために誂えられた上布の存在を知らずに過ごしたようだ。 現在、この麻の着物はわたしが可愛がっている。 波に千鳥は 世間の荒波を「一緒に乗り越えていく」という意味があり、 夫婦円満や家内安全の象徴とされている。 祖母は嫁ぐ娘に幸せになってほしいと 思いをのせて、波に千鳥をもたせたのだ

Hamanaka Akiko
8月7日読了時間: 2分
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