À la recherche du temps perdu ― 黒の麻、波に千鳥
- Hamanaka Akiko

- 8月7日
- 読了時間: 2分

母が嫁ぐ時に花嫁道具のひとつとして持たされたという、麻の着物。
普段着だ。ところどころにフシが見られることから、けっして高価なものではないことがうかがえる。
夏のひとときを新婚夫婦で過ごせるよう、男ものの上布と共に持たされたらしい。
袖の丸みはふんわりとして、あくまでも薄く、陽にかざすと青空が透けて見える。
千鳥が波に遊んでいる。
風が吹けば波しぶきがおこる。
私が歩けば千鳥が舞う。
着物は着て歩いて初めて息をする。
祖母が着ていたものかもしれない。
袖と身頃に継ぎがしてある。
ざっくばらんに。
祖母が自分で繕ったのだろう。
母はこの千鳥を長い間行李からださなかった。
というか、一度も袖を通さなかった。
父も、自分のために誂えられた上布の存在を知らずに過ごしたようだ。
現在、この麻の着物はわたしが可愛がっている。
波に千鳥は
世間の荒波を「一緒に乗り越えていく」という意味があり、 夫婦円満や家内安全の象徴とされている。
祖母は嫁ぐ娘に幸せになってほしいと
思いをのせて、波に千鳥をもたせたのだ。
70年は越すであろう着物は
今は私が楽しんでいる。
こんな衣類、世界にどれだけあるのだろう。

You may never wear a kimono. But you can wear the art of Wasai.
On ne porte pas forcément un kimono. Mais on peut porter l'art du Wasai.
— PASSIONEER



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