À la recherche du temps perdu/なぜ世界のデザイナーは縮緬を使わないのか
- Hamanaka Akiko

- 6 日前
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更新日:5 日前

世界のファッションデザイナーはシルククレープをよく使う。しかし日本の縮緬はほとんど使われない。なぜだろうか。
その理由は単純だ。縮緬は着物という構造のために設計された布だからである。
まず知ってほしいのは、着物の生地である反物の幅だ。反物の幅は約38cm。この幅がまず世界基準を満たさない大きな理由である。
生地の幅が38cmしかないとなると、洋服のような立体裁断やバイアス利用を考えるとそもそも難しい。これがまず着物の生地が洋服に使われない大きな理由のひとつだ。
現代の着物でよく問題になるのが裄の長さである。昨今は日本人も体格が大きくなり、若い世代は腕も長い。そうすると、反物の幅が38cmしかない場合、同じ地の目で袖を作ることが難しくなる。
西洋服 | 着物・縮緬 |
広幅生地(120〜150cm) | 反物(約38cm) |
立体裁断 | 直線裁ち |
重力で生まれるドレープ | 動きで生まれるドレープ |
安定した織物構造 | 強撚糸によるシボ |
洋服のように生地を横にして使えばいいのでは、と簡単に思われるかもしれない。しかし着物は地の目を通し、繊維を同方向に揃えて直線で裁ち、仕立てる衣服である。
和服は仕立て直しを前提に作られている。そのため、生地の方向を変えてしまうと光沢や質感が変わってしまう。布の幅という制限が、洋服地とは大きく違う文化を作っている。
さらに縮緬にはもう一つ大きな特徴がある。それは強撚糸で織られていることだ。
代表的な縮緬の一つに一越縮緬がある。この生地は強く撚られた糸で織られているため、表面には「シボ」と呼ばれる細かな凹凸が生まれる。
このシボは、熱や水に非常に敏感である。そのためミシンで扱うと生地が動きやすく、アイロンを強くかけると右と左の身頃の大きさが変わることさえある。
実に気まぐれなお嬢さんだ。

西洋の衣服は広幅の生地と立体裁断で発展しており、着物とは構造が大きく異なる。
西洋の衣服は広幅の生地と立体裁断で発展しており、着物とは構造が大きく異なる。
強撚糸によるシボの縮みを、手の感覚だけで感じ取り、伸ばさないように優しく扱う。細い絹糸用の針で縫い進める。ミシンでは決してできない、シボとの付き合い方が和裁士の手に舞い降りる。
強く撚りをかけられた糸が縦と横に共鳴し、世にも美しいしなりとうねり、ドレープが生まれる。歩くたびに、風が吹くたびに揺れ動く生地は、まるで天使からの贈り物のようだ。
縮緬は纏ってこそ、動いてこそ働き始める布である。纏った人を美しく見せ、身体の動きとともに生きる布。
襟をぬき、肩から手先へ続く柔らかな線と動き。それは縮緬だからこそ生まれる。
ミシンで縫うと生地が動いてしまうため、同じサイズ展開を前提とする洋服には向きにくい。
縮緬は着物のために織られている生地なのだ。
世にも贅沢な、自分を美しく仕立てる相手を自ら選ぶ、気位の高いお嬢様なのである。

着物を着られなくても、和裁を纏うことはできる。

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